ニュースレター『て・くむ』

子育てをともに考えるニュースレター

2006年 3月号
                                  
て・くむ          愛された子どもは愛することのできるおとなになる                               海の星カトリック幼稚園        (te cum: ラテン語「あなたとともに」の意)                                                  園長  神馬  久美

 
                                                             3月の聖句

 神の国からし種のようなものである。土地に蒔く時には地上のどんなものより小さいが、蒔かれると育ち、どんな野菜よりも大きくなり、空の鳥が陰に身を寄せるほど大きな枝を張る。        〔マルコによる福音書 4章:30〜32節〕

 トリノ・オリンピックのゴールドメダリスト、荒川静香選手に、日本中が喝采を送りました。海外のメディアも「精神性が非常に高い」と絶賛したそうです。「順位は意識しなかった。自分を表現し、見ている皆さんが喜んでくださる演技を精一杯しようと思った。」と語る真摯で謙虚な態度はとてもさわやかです。その演技は、あの大舞台での緊張に圧倒されることなく、喜びに満ちていました。日本の若年層の学力、体力の低下、精神の未熟さが取りざたされる中で一筋の希望の光を見る気がします。おそらく彼女は、幼児期から、すてきな両親、よき先生、先輩に恵まれたに違いないと私は感じました。
 子どもは誰一人として、大切な人に喜んでもらうための努力を惜しむことはありません。たとえ失敗があっても、また思い通りにならない時も、その時の気持ちに心から共感してくれる大好きな親、先生がそばにいてくれれば、ありのままの自分を自分として受け入れ再び立ち上がる強い心が必ず育ちます。まさに、「愛された子どもは、愛することができるおとなになる。」のです。
ほかの人の役に立つことの喜び――それこそ、「神の国」の実現につながる、「からし種」――は、確かに、「海の星」の子どもたちの中で大きく強く育っています。子どもたちと過ごす園の1年は、私にとって、職員一人一人にとって、感動の連続でした。今年も『て・くむ』を読んでいっしょに喜び、いっしょに考え励ましてくださった皆様に、心からお礼を申し上げます。

      
           すてきなようちえん

       (園で見かけたすてきなできごとをご紹介します。)

★ おゆうぎ会は大喝采と笑顔で終了。当日はお互いの出し物を見る事ができなかった子どもたちですが、ダンスを終えて部屋に帰ったゆりさんを見て、すみれのHくんが「どうだった?」ときくと、ゆりのrくんのうれしそうな声、「だいせいこう!」 また、「ばらさんのジャックたち、うまくいったかな?」と女の子たちも心配していたそうです。
★ 練習の時には園舎のお部屋から聖マリア館ホールまで大移動。特に最後の数日は器楽合奏の練習をホールでしたので、楽器を運ぶのは一仕事です。しかしさすがは年長組。運びこぶのもスムーズそのもの。また片付けのときは自分の楽器を運び終わった子たちがホールに戻ってきて、「せんせい、もっていくものある?」と聞いて手伝っていました。
プラネタリウム観賞に「おわかれ遠足」として歩いて行きました。雨が降りそうだったので、レインコートを着て、すみれはゆりの手をしっかりつないで、どんどん歩きました。歩きながらつい歌ってしまうのは、オペレッタの歌。「くちごたえするんでなぁ〜い!」というおうさまのところは、そんなに大声でなくてもよかったんだけど・・・。とにかく、とても楽しく歩きました。
★ 突然ばらぐみのkくんがじっとじんばもんばの顔を見て、「どうですか。」と言います。「・・・?」と、見つめあってから、やっとわかります。歯ブラシをしたので確認してほしかったのね。きれいな白い歯を見せてくれたので、「OK!」と言うと、にっこり。きっといつも、お母さんが見てくれるのだね。
★ 7日はすばらしいお天気、お庭にレジャーシートを敷いてピクニックランチをしました。みんな食欲モリモリでした。

☆ 3月6日、浜田小学校の4年1組と2組の児童約60名が幼稚園に来てくれました。すみれは3グループに分かれて、防災カルタを、ばらは5グループで防災すごろく、ゆりでは防災の紙芝居とペープサートを一緒にたのしみながら防災のことを習いました。
☆ 防災のブランケット、多数集まりました。ご協力ほんとうにありがとうございました。
☆ 新しい年度の協力会役員が決まり、新旧役員の引継ぎも終了しました。快く役を引き受けていただいた皆様、よろしくお願いします。1年間、さまざまな場面でご協力いただきました役員の皆様、そして防災委員の皆様、心より感謝いたします。お疲れ様でした。


The biblical phrase of this month—The Kingdome of God is like a mustard seed, the smallest seed in the world planted in the ground. After a while it grows up and becomes the biggest of all plants. It puts out such large branches that the birds come and make their nests in its shade. (Mark 4: 30-32)
Shizuka Arakawa, the gold-medal winner of the Olympics, showed us that there is hope in our future, even though Japanese youth’s physical , academic and mental strength is said to decline. She sounded very sincere, humble and sensible as she said, “ Regardless of the prize, I only wanted to express myself and tried my very best to make all the spectators delighted.” I imagine she has been brought up by wonderful parents, and supported by good teachers and seniors since she was a little girl. No child ever refuses to strive to make his loved ones happy. Even when he fails, he will be able to accept what he is and get strength to stand up and start over, if only his parents or teachers share his feelings of discouragement, sitting beside him. “Those children who were loved will grow to be the adults who can love.”
“ A mustard seed of the Kingdome of God” is the joy to make efforts for the others. The seed is practically, powerfully growing in the heart of every Uminohoshi Children. The year at this kindergarten was a series of dramatic scenes for us all staff members. Thank you for reading this newsletter all year through and giving us supportive comments.

✎On the 6th the students of Hamada Elementally School visited us to play with our children and to give them ideas of disaster prevention through their hand-made games.
✎ Thank you for donating so many nice blankets for disaster relief. ✎ We especially appreciate hard work of the Kyoryokukai committee members and many thanks to the new members’ voluntary spirits to help out for the new school year.


《疑問にお答え》

  ★海の星カトリック幼稚園の『神様のお話』の時ってどんなことをするの?

 今回はこんな疑問にお答えします。聖堂の中で、園児たちはきちんと座ってお話が聞けるようになっていきますが、その秘密は「神様のお話」が、①わくわくする内容である ②「対話」形式で自由に発言できる ③実体験、実生活に結びついている というところにあるでしょう。絵本の読み聞かせを導入した年少ゆりぐみの、ある日の『神様のお話』の様子をできるだけありのまま再現してみました。


【ねらい】
今月のテーマ「イエスさまとわたし」に沿って今日選んだのは、福音館書店の絵本『あさえとちいさいいもうと』です。私たちもイエスさまと同じようなやさしい心を神様からいただいていることを実感するのが今日のねらいです。

【絵を読む、表情を読む】
まず、表紙を見せて、「今日はこの本を読みます。」と言うと、読み聞かせが大好きな子どもたちはもう期待いっぱいです。タイトルを声に出して読んでくれる子もいれば絵を読んで「あっ、くつ はかせてあげてるね。」と言う子もいます。絵の中の小さい子が妹だとすぐに理解し、「ぼくんちもAちゃんがいるよ。」「BちゃんちもCくんがいる。」と口々に教えてくれます。
 読み聞かせの基本は、子ども達と読み手の対話です。聖堂での「静粛」のマナーも絵本に集中している限り大目に見ています。絵本の読み聞かせでは、紙芝居と違って、子ども達一人一人の表情を読み手がしっかり観察できますので、言葉を理解しているか、何を感じているのかがよくわかります。

【対話する】
中表紙を開くと、「あっ、ひとりだ。」という声が聞こえます。読み進むうちに、お留守番をしている間に妹のあやちゃんがお昼寝から起きてしまったという事情がわかります。あさえはあやちゃんにやさしく声をかけ、手を引いてやります。
あやちゃんの ては とても ちいさくて やわらかです。
あさえは ずんと せが のびて おおきくなった きもちでした。
と、読んで、「こんな気持ちになったことある?」と聞くと、「ある、ある。」とか「うん、わかる。」などにこにこしながら口々にこたえてくれます。「そうか、みんなやさしいんだね。」と言って、続けます。地面にチョークで線路を描いているところでは、「せんろってなに?」と聞く子もいますが、簡単に答えながら進みます。すべての発言は尊重します。もし、あまりにも対話がテーマから外れそうになったときは、「次、読んでいい?」と聞くと、軌道修正できます。あやちゃんの姿が見えなくなり、あさえが急ブレーキの音を聞いて走り出すところでは、全員真剣な表情になり身動き一つしません。すっかり本に吸い込まれていっているのです。あさえと同じように「むねがはげしく」鳴っているようです。
あやちゃんによく似た子を見かけて追いかけるところ、知らないおじさんに手を引かれている子を見て息をのむところでは、あさえとこどもたちの息遣いが重なっているようにうかがえます。
やっと こうえんに つきました。
「いた!」 こうえんに あやちゃんが いました。
「どこ、どこ?」「えっ、みえない!」「あ、ほんとだ、いた!」としばらく大騒ぎ。そのうち、「ああ、よかった!」「よかったねぇ、せんせい。」と、みんなの顔がぱあっと明るく輝いてきます。大きな聖堂のなかに急に朝日が差し込んだかのような不思議な暖かさを作り出しているのは、この子どもたちの純粋な心に他なりません。


あさえは ものもいわず、あやちゃんに かけよりました。 あさえに きがつくと、 あやちゃんは にこっと わらって すなだらけの てを あげました。

さて、最後のページを開く前に聞いてみました。
「さあ、みんながあさえちゃんだったら、これからどうしますか。」

【自由な発言】
一瞬、間があって、3名ほどの女の子がほぼ同時に言いました。「抱きしめてあげる!」 続けて「だっこしてあげる。」「チュッしてあげる。」「なみだをふいてあげる。」(年少では泣いている子の涙を拭いてあげるのがやさしさと思っているのです)など、それぞれ、自分の言葉で発言してくれます。「おんぶしてかえる。」「てをつないでかえる。」「おはなししながらかえる。」「どろだんごをつくってあげる。」など、みんな、友達の意見を聞きながら、自分自身の意見を自分の言葉で伝えようとしてくれます。私はその熱意、熱弁に圧倒されます。まっすぐで清らかな子どもたちのすばらしさに、胸が熱くなります。
「そうか、みんなやさしいね。では、つぎのページみてみようか。」と言って最後の抱きしめている場面を開きます。そして最後に、裏表紙の絵を見せて、みんなでおうちに帰れたことを示します。

 「さあ、ご本はこれでおしまいです。」と伝えると、まだ興奮の冷め遣らないDくんが、「ああ、ドキドキしたぁ〜!」と、言いました。「うん、ドキドキしたね、せんせい。」と、また、何人かが言ってくれます。あやちゃんがいなくなったら、どうしようかと、本当に心配だったと伝えようとしているのです。「そう! 先生は、今とってもうれしいです。それは、みんながほんとにやさしい心をもっているということがわかったから。その、やさしい心はね、神様の心、イエス様の心とおんなじなんだよ! 実はね、神様はみんなの心の中にもいらっしゃるのです。」 「へぇ?」という表情ですが、もう誰も声は出しません。みんなの目がきらきら輝いて、「なんだかすてきなことをみつけた!」という雰囲気です。 

【まとめ: かみさまもおなじです】
そこで、まとめとして、いつも神様はみんなのことを見ていてくださること、もし、みんなのうちの誰かがいなくなったり、泣いていたり、病気だったりしたら、今の本を読んでいたときのみんなのようにとっても心配して神様もどきどきしちゃうに違いないこと、そしてまた見つけることができたときには、元気な笑顔が戻ったときには、さっきのみんなが思ったのと同じように、ぎゅうっと抱っこしてあげたいって思うほど神様もとってもうれしくなるということを伝えます。

【お祈りをしましょう】 
 最後に、「私たちのことを大好きな神様、イエス様ともっと仲良しになれるように、マリア様にお祈りしましょう。」と言って、みんなで「めぐみあふれる聖マリア・・・」とお祈りをします。「これで今日の神様のお話を終わります。」と言うと、元気に「ありがとうございました。」と答えてくれ、一人ずつ手を合わせて祭壇の十字架に礼をしてから、静かに聖堂を出てゆきます。

☆年長では、「イエスさまは、どうしてじゅうじかにつけられたの?」とか、「『ふっかつ』ってなに?」など、かなり高度な質問も出ますし、旧約聖書のお話を聞く年中組は、記憶がよくて、「うられたおとうとのなまえもヨセフさんだったよね。」と聞いてくれたりします。けんかや失敗、嘘をつくこと、障害など日常の出来事をテーマにした一般の絵本の読み聞かせをすると、上の例のように対話の中から、子どもたちが自分で神様のメッセージを見つけ出してくれて、読んでいる私の方が感動してしまいます。